『一九八四年』|ディストピア小説といえばコレ
今回のレビューは ジョージ・オーウェルの『一九八四年』。
後のSF作品などに多大な影響を与えた本作。タイトルからは想像できない結末が待っています。
こんな人におススメ
- これからSFをトコトン読み進めようと思っている人
- 全体主義の恐怖を味わってみたい人
- ディストピア小説がどんなものか知りたい人
新訳として再版されたものです。
原作は1949年イギリスで発行。その後、様々な言語に翻訳され多くの国の人々に読まれています。
この作品が後世に与えた影響は大きく、文学作品に限らず、思想・哲学・文化・芸術・音楽など多方面でその端緒を垣間見ることができます。
多くのSF作品に於いても本書タイトルやその内容について語られる場面が散見されるので、読んでおいて損はないと思います。
ただし予め明言しておきますが、後味はそれほどいいものではありません。
評価
【25.5ポイント】
“ビッグ・ブラザー“、”二重思考“、”ニュースピーク“など本書起源の言葉が多くあります。
いろんな本で登場するので覚えておきましょう。
『一九八四年』|基本情報
作品名(原題) | 一九八四年 [新訳版] (Nineteen Eighty-Four) | |
---|---|---|
著者 | ジョージ・オーウェル (George Orwell) | |
刊行年(英国) | 2009年7月[新訳版], 1972年[旧版] (1949年) | |
ページ数 | 512 ページ | |
出版社 | ハヤカワepi文庫 | |
ジャンル | ディストピア系 |
あらすじ
分割統治が続く3つの超大国のうちの一つである”オセアニア”は、ビッグ・ブラザーと呼ばれる影の指導者によって支配されていた。
他の2国”イースタシア”、”ユーラシア”とは敵を変えて常に交戦状態にあり、物資や食料は恒常的に窮乏していた。
党員は日常生活を監視されるだけでなく、あらゆる行動が党の厳しい制御下に置かれている。
主人公のウィンストンは、まだ旧体制下にあった幼少期の頃のおぼろげな記憶から、現体制について大きな疑問を抱いたまま日々を送っていたが、あるとき知った重要な事実から、『日記』を記し始める。
彼は何を見て、そして何を見なかったのか。。。
主要登場人物
『一九八四年』|推しどころ
ディストピア小説の決定版
ディストピアはびっくりするほどユートピア(理想郷)の反語です。
すなわち反理想郷なので、大抵の人にとって不快な社会な訳です。
この本のなかで語られる世界は社会主義化したイギリスが舞台。
腐敗しきった権力者たちによる徹底した文民統制が敷かれ、被支配者層は日々改ざんされる歴史的事項やでっち上げのニュース、弱体化された言語(ニュースピーク)の強制などにより見事にコントロールされ虐げられています。
嫌悪されるべき社会を描いたこの小説は、しかし、多くの国で翻訳され長い年月にわたり読み継がれています。
ディストピアものは確かに読んでいて心地いいものではないのですが、その反面読後は「これはフィクションだから大丈夫」と心理的に安心でき、また「こうは為りたくねぇな」と強烈な批判材料となります。(※人によってはある種のトラウマとなってしまうかも知れませんが、、、)
そうした不穏な未来社会に対して警鐘を鳴らしたこの本の存在意義は非常に大きいと思います。
監視社会のもたらす恐怖
街のいたる所に掲げられているビッグブラザーの肖像画。
どこに居ようと常にその目に見詰められ、見る者を威圧しています。
実際、市民の行動は常に当局に監視され、さらに不穏な動きは近隣の住民によっても密告の対象とされ、家に居る時でさえも気が休まることはありません。
物語の中では監視により反体制的な振る舞いについて厳しく取り締まられ、捕えられれば拷問の末に改心させられるか、そのまま存在を抹消されるという恐ろしい結末が待っています。
でも、よく周りを見てみると、いまの自分たちも似たような境遇だといえます。
街中には監視カメラがそこかしこで目を光らせ、過激な行動や突飛な行為はすぐさま動画に撮られSNS上で拡散され、即刻個人まで特定されてしまいます。
防犯上の理由や迷惑行為に対する警鐘という意味においてはそれらは必ずしも悪影響とは言えませんが、ひとつ間違えば本の世界と同じことが起こりえないとも限りません。
いつも誰かに観られてると思うと、ちょっと気味悪いですよね。。。
権力は腐敗する
これはもうひとつの真理ですね。
今の我が国を見ても肯けると思います。
いったん権力の座につくと、あとはそれを維持するためありとあらゆる手段を講じるようになります。
でなければ、とっくの昔に戦争なんてものは無くなって平和で平等な世界が実現していることでしょう。
物語の中でも、大衆の敵として「ブラザー同盟」という架空の反乱組織を作り上げ憎悪の対象とすることで、党自体に怒りの矛先が向かないように仕向けたり、常に他国と交戦中であるという状態を意識付けし愛国心を煽るという、周到さを見せます。
人間の欲望って怖いですね。
まとめ
党の掲げる以下の3つのスローガンがあります。
・戦争は平和なり
・自由は隷従なり
・無知は力なり
<二重思考>の概念を端的に表しているフレーズなのですが、最初はよく意味が分かりませんでした。
が、読み進めていくうちに、党が実践している思考統制のおぞましさが理解され始め戦慄しました。
党がなぜこれほどまでに厳しい文民統制を行う必要があったのか、その究極の目的は何なのか?
物語後半で明らかにされたとき、心の底から嫌悪感を抱きました。そしてここで書かれている内容が物語(フィクション)だからといって決して安穏としてはいられないと言う事も痛感しました。
現在の我が国が特定の少数による寡頭制でないと言い切ることが本当できるでしょうか?
それを考えると末恐ろしいです。
あと、この本には聞きなれない単語(造語)がかなり出てきます。
しかも重要なキーワードだったりします。
”ニュースピーク” や ”イングソック”、”二重思考”、”二分間憎悪” などなど。
特にニュースピークの諸原理についての考え方はある意味でものすごく興味深かったです。
これは巻末に付録として載っているのでここも忘れずに読むことをおススメします。
コメント