『揺籃の星』|ホーガン後期3部作の1作目
今回のレビューは J・P・ホーガンの『揺籃の星(上下)』です。
『星を継ぐもの』から始まる最初期の3部作に比して、こちらは後期3部作の1作目となります。
※実際には3部にあたるシナリオは世に出ることはありませんでした
こんな人におすすめ
- ヴェリコフスキーと聞いてピンとくる人
- 太陽系の成り立ちや宇宙に興味がある人
- 手に汗握るようなスリルを求めている人
- ホーガンの『星を継ぐもの』を読んだことがある人
ホーガン作品を読んだことがある人もそうでない人も、ハードSFが好きな人にはおススメです。
『星を継ぐもの』とは異なるアプローチによる地球の歴史を紐解いていく内容ですが、こちらは結構シュールな展開が待ち構えています。
これまでのホーガン作品とは一線を画すカタストロフ的印象で、違った意味でインパクトのある作品です。
評価
100点満換算の68点。
『揺籃の星』|基本情報
作品名(原題) | 揺籃の星(Cradle of Saturn) | |
---|---|---|
著者 | ジェームス・P・ホーガン(James Patrick Hogan) | |
刊行年(米国) | 2004年07月(1999年) | |
ページ数 | 315/382 ページ (上/下) | |
出版社 | 創元SF文庫 | |
ジャンル | ハードSF |
あらすじ
地球はかつて土星の衛星であった!?土星の衛星に住むクロニア人科学者たちは、地球の科学者にとって到底受け入れがたい惑星理論を展開する。太陽系は何十億年も同じ状態を保ってきたのではない。現に今、木星から生まれた小惑星のアテナは突如彗星と化し、地球を襲おうとしているのだと。
「揺籃の星(上)」より
主要登場人物
『揺籃の星』|推しどころ
地球誕生の謎にせまるミステリ
この本のポイントの1つは、地球がどのように誕生したのかを解き明かすSFミステリである点です。
あらすじにあるように「地球がかつて土星の衛星」であったという点を大々的にぶちまけています。
この時点で既に何だか面白そうだなぁと思ったアナタはSF好きな人のはず。
そして、この大胆な仮説をより具体的に紐解いていくために、その理論の提唱者であるクロニア人なる土星の衛星で暮らす人類が設定されています。
クロニア人がどのように土星の衛星に住み着いたのかなどは本書で語られる部分を読んでいけば分かります。
太陽系の進化についての全く異なる理論
実はこの大胆な仮説にはベースとなる理論が存在します。
それが【ヴェリコフスキー理論】。
聞いたことがある人は科学的な素養のある人かSF好きな人でしょう。
どんな理論なのかを詳しく説明するととても長くなるのでざっくり言うと
「現在の太陽系惑星は、今の理論とまったく異なる現象により形成された」
といった内容で、一般的に疑似科学と捉えられているものです。
※解釈が異なってる部分もあるかもしれません
まぁ疑似科学と言われる通り、信憑性に乏しく屁理屈をこね回したような論理展開なので、提唱したヴェリコフスキー氏は世間一般には疑似科学者と見なされ、その理論も学会から完全に無視されている状態です。
ホーガン流ヴェリコフスキー的転回
とは言え、この理論、簡単に無視できるようなシロモノではないと目を付けたのがホーガン先生。
『星を継ぐもの』を既読の方ならばご存知でしょうが、
地球はかつてxxxだった。(ネタバレなので伏せておきますが)
という、これまたトンデモ理論を見事に描き切って度肝を抜かれた事と思います。
※未読の方はこちらにレビューもありますので是非読んでみてください
本書に於いては、クロニア人というある意味裏ワザ的な存在が表立って登場しますが、それが一種の緩衝材として機能し、単なる似非理論をやや信憑性のある学術理論に成り立たせています。
ハードSFとはいえ、そもそもフィクションなのでこの手法は有効です。
荒唐無稽過ぎるとして異端と言われる理論も、少し見方を変えたりひねりを加えることで、これまでの常識が実は間違っていたのではないかと疑ってかかるためのカウンターパンチとなりえます。
そういう意味でやはりホーガンの着眼点は優れているなぁと再認識しました。
まとめ
ホーガン流ハードSFの終着点
まぁそうは言っても正直なところ、同著『星を継ぐもの』と比較すると粗が目立つし、理論が弱い点も否めません。
また上下2巻と長めなうえに、途中間延びしている感もあります。
それでも、地球創生にまつわるホーガン流の新説を提唱する意欲は素直に評価したいですし、既に科学的知見に見放された理論に敢えて乗っかってみる度量も称えたいです。
※単にホーガン好きなだけという意見もありますが、、、笑。
3部作として未完であることを除いても読むべき価値はあると思います。
疑ってみることも大事
科学は膨大な研究や検証・考察を繰り返して成熟された学問あるいは事象の礎となるものです。真理といってもいいかもしれません。
それ故、一度世間に認知されてしまうとそれを覆すのは容易なことではありません。
本書でも、これまでの当たり前を根底からひっくり返す天変地異を容易には受け入れられずに対立する構図が描かれています。
しかし、人間である以上全ての事柄に完璧に回答出来るものではないのも事実です。
※カラスが何故鳴くのか、人間には分かりようがありません
実際にそれまで当然とされていた科学的事象が、新たな理論や技術的進歩により覆された例も少なくはありません。
そうした、これまでの常識というのを一度疑ってみるのは大事なことだと思います。
想像力には限りがない
ハードSFはその科学的な事象を下支えとして、実際にもあり得そうなラインを想定して描かれていることがほとんどです。
(※SFに詳しくない方のために補足すると、SFといってもいろいろなジャンルがあり『スターウォーズ』や『スタートレック』のような宇宙を駆け巡る “スペースオペラ” ものや、『タイムマシン』『バックトゥザフューチャー』のような時間軸の行き来を題材にした “タイムパラドックス” ものなど、およそ現在の科学水準からはかけ離れ過ぎていてフィクションと割り切っているものをSFをして捉えているかも知れません。しかしハードSFとは、現在の科学でも通用しそうな、少し見方を変えることで現実的にあり得そうな科学事象を扱ったジャンルといえ、近未来を垣間見せてくれるような楽しみ方ができます)
しょせんはただの法螺話ですが、これをただのフィクションとみるか、近未来の一つの形と捉えるかは読んだ人次第。
でも『月世界へ行く』が書かれた19世紀、月へ行くことは当時の人にとってただのお伽話だったのではないでしょうか。
人の想像力には際限がなく、未来の可能性も無限大だと私は信じています。
そうした想像力を養うのに本書も一役買ってくれるものと思います。
最後までご覧いただきありがとうございます。
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