SES (System Engineering Service)という働き方があります。
自分もそうした会社で働く40代後半の崖っぷちSEです。
その中で働くにあたって、これまで経験した内容をもとにSESのメリット・デメリットを含め、中小SES企業で働くことの難しさ、やめておいた方がいい理由を解説します。
SES (System Engineering Service)とは
SES は System Engineering Service(システムエンジニアリングサービス)の頭文字で、エンジニアをクライアント企業へ派遣し対価を得るサービスのことです。
SES を事業主体とする会社をSES企業、クライアント間と取り交わす契約のことをSES契約と呼びます。エンジニアの契約形態として、請負契約や派遣契約などと比較されることもあります。
契約形態の違い
SES契約とその他の契約についての違いも簡単に解説しておきます。
契約形態 | 報酬の対象 | 指揮命令 |
---|---|---|
SES契約 | 労働力 | SES企業(派遣元) |
請負契約 | 成果物 | SES企業(派遣元) |
派遣契約 | 労働力 | クライアント企業(派遣先) |
委任契約 | 労働力 | SES企業(派遣元) |
指揮命令系統や対価によって上記のように定義されていますが、IT業界に於いて厳密に守られているものはほぼ皆無じゃないかと思います。
少なくとも自分がこれまで派遣された多くの案件ではクライアント企業から直接、あるいは元受けのSIerから指揮されることが一般で、それが当たり前だと思っていました。
SES=グレーな契約形態
SES は基本的に派遣先企業に常駐する形で作業を行うため、自社(SES 企業)から作業指示を受けることは実際にはあり得ません。
そうした契約形態がまかり通っているのには理由がありますが、それについては後述します。
多くの企業では、自社SEを抱えることはコスト的な問題で敬遠されるため、システム開発に関しては外注契約で短納期、低予算で行われることが一般的です。
そうした案件を多く取り付けるのが大手の SIer になります。
SIer とは
SIer を説明する前に SI とは何かを説明します。
そもそもSIって?
SI=System Integration のことで、直訳するとシステム統合という意味になります。
IT業界におけるSIというと、一般的には企業内システム開発にかかる業務全般をさします。
顧客の要求を掬い取り、利便性・効率性を高めるための多岐にわたる開発となるため、企業規模によっては一大プロジェクトとなることもあります。
そうしたプロジェクトは中小ベンダーではなかなか取り扱う事はできないため、SIを専門に手掛けるSIerという企業が一次受けをすることになります。
SIer の善し悪しが SES の働き方を左右
SIer はプロジェクトを多く抱えており、必要に応じて自社の要員を派遣したり自社で請負開発を行います。
プロジェクト規模や開発時期など様々な要因から常に自社のエンジニアを充てるのは難しいため、そうした場合に SES と契約して労働力を一時的に確保します。
方や一般的な(中小) SES がプロジェクト契約をとりつけることは稀なので、SIer に自社の労働力を提供することで利益を得ています。
こうしてお互いの不足を補い、共生する関係が出来上がっています。
SIer も規模や経営方針によってさまざまで、あつかう案件やPM(Project Manager)、その他のメンバーによって善くも悪くもなります。
中小 SES の抱える問題
企業の利益が優先される
中小規模の SES(うちの会社)は請負等で社内開発などを手掛けない限り、社員の働き口がないので、必然的に SIer やお付き合いのある会社で案件を紹介してもらうことになります。
SES は自社エンジニアを外に出して対価を得ないと利益が出ないので、なんとしても契約をとろうとします。
一方で受け入れ側(多くはSIer)の方でも使える兵隊は多い方がいいし、マージンも得られるのでSESから人を入れようとします。
こうして見ると企業間においてはお互いの利益が一致していてWin-Winの関係にあると言えます。
冒頭でのべた捻じ曲がった業界体質や契約形態の裏側にはこうした利害関係が絡んでいます。
そして、ここに最大の落とし穴が潜んでいます。
案件のミスマッチが不幸を招く
この企業間の利益の一致のために、一部のエンジニアが弊害を被ることになります。
あるプロジェクトで要員を募集していたとします。そこで必要とされるスキルには一定の要件があります。
SEなのかPGなのか、開発のどのフェーズで必要とされるのか、開発言語はなにかなど、どういう人材を欲しているかという部分です。
当然、プロジェクトごとに求められるスキルは異なってきますし、担当フェーズも上流から下流まで任される場合もあります。
しかし、多くの中小SESでこれらの要件を満たす人材が余っていることはありません。
なぜなら、そんな人材いても常にどこかに派遣されているか、もっとよい環境(SES以外)で仕事しているからです。
ではどうやってそうしたプロジェクトに潜り込ませるかというと、大抵の場合、経歴を詐称します。
まぁ、コレは多くのところで大なり小なりやっているので公然の事実じゃないかと思います。
業界あるあるでしょう。
受入れ元でもそれが分かっているため、多少のミスマッチや経験不足は目をつぶってくれます。
しかしそれでいざ参画してみると、まったく求められるものが違うケースなどもままあります。
そうしたケースで一番の被害を被るのは誰あろう、そこに入ったエンジニアとその周囲のメンバであるのは想像に難くありません。
炎上案件には要注意
自分が就職した(20ウン年前)当初、IT業界は人手不足が叫ばれており SE や PG は常に枯渇した状態でした。※これは今でも改善していないのですが、、、
そのような状況ではとにかく人をかき集めてプロジェクトに放り込み、人海戦術で乗り切るという場当たり的な要員計画が横行していました。
当時は2000年問題の対応が叫ばれる真っ只中であり、とにかく人材を欲しがる企業・プロジェクトが数多くありました。
人さえ集まればあとはプロジェクト内で調整可能な部分もあるので、スキルがあろうがなかろうが十把一絡げで多種多様な人材がかき集められます。
ここにも大きな落とし穴があります。
大抵の場合、このような案件は切羽詰まってにっちもさっちもいかない状態にあるのが常です。
こうしたプロジェクトは総じて “炎上案件” と呼ばれます。
こうしたプロジェクトに放り込まれて心身ともに疲弊して病んでいったIT戦士たちも多くいました。
そうした案件を揶揄した デスマーチ なる言葉も某掲示板のネタの一つでした。
中小 SES で仕事するメリットとデメリット
こんな業態が依然として機能しているのもやはりメリットがあるからです。
未経験でも入社可
そんな少ないメリットの一つが、「未経験でも可」なSES企業が多いこと。若い(20代)ことが条件ではありますが、大抵のところはそれだけでも雇ってくれます。
IT企業で働くことやITエンジニアというとスキルフルなイメージがありますが、末端のSES社員などはまったくの未経験者がかなりの数を占めます。
上でも記載したように、SE や PG といったいわゆる IT エンジニアは恒常的に不足していおり、とくにシステム開発を手掛けるような大手ベンダーなどはひっきりなしに人材募集をかけています。
SES では未経験の若い人材を集め、SIer 案件を通して、いわば社外実地研修という形で育成を計ります。(入れられた方はたまったものじゃないdeath)
当然単金も低く、なかば丁稚奉公のような形で馬車馬のごとく働かせられます。
いろんな経験ができる
もう一つのメリットとして、「いろんな案件にかかわることができる」というものです。
SES の業務体系上、様々な案件に駆り出されることになります。言いかえると沢山のスキルを獲得する機会があるということです。※まぁこれも本人の努力次第ですけど、、
目新しい技術や開発ツールなどにも触れるチャンスが増えるので向上心のある人にはいい環境といえます。
デメリットはデカい
メリットとしてはそれほど多くないSESですが、デメリットは山のようにあります。
- 案件を選べない
- プロジェクトによって環境がまちまち
- 人間関係の構築が面倒
- 自社への帰属意識・社員間の繋がりが希薄
- ベテラン(歳取る)ほど入れる案件が限られる(※受け入れ先から敬遠される)
- 給料やすい
- 残業おおい
後半はただの愚痴になってますが、パッと思いつくだけでもこれだけのデメリットを享受できます。
なかでも前半3つのデメリットは非常に面倒です。簡単に説明します。
案件を選べない
デメリットのうちでも最も強烈なものです。
中小SESのエンジニアは基本的に自分ですきな案件を選べません。なぜなら、えり好みできるほどの案件を抱えていないから。
要は出たとこ勝負です。募集がかかったタイミングでその時空いている(社内にいる)人間が受けることになります。このとき、その人に適性がなかったりすると上述のような経歴の改竄が行われたり、多少の減額を担保になんとか契約しようとうごきます。
もちろんエンジニア側も断ることはできますが、そのあと何を言われるか分かったもんじゃありません。
プロジェクトによって環境がまちまち
これはSESの性質上ある意味当然なんですが、行く先々で環境が異なります。
まずは現場自体が変わるので、自宅から遠くなったり通勤しづらい場所になったりもします。
加えて作業環境(PCやネットワーク、執務室の環境等)も当然変わってきます。
いい現場だとハイスペックなPCやキレイなオフィス環境な場合もありますが、そうでない現場だと「狭い・空気が悪い・ネットワークが時々止まる」など、およそ作業に向いてない環境だったりするケースもあります。
人間関係の構築が面倒
これも人によってはあまり影響がないこともありますが、自分にとっては大きなストレスでした。
環境が変わるだけでもかなりなストレスなのに、加えて人間関係を再構築しないとならないため、最初の数週間はほんとにキツイです。
環境面での当たり外れは慣れてしまえばどうにかなります。
しかし人間関係は失敗すると後々にまで大きく響いてくるので相当なエネルギーを使います。
これが許容できないならば、絶対にSES要員になるのはやめておいた方がいいです。
SESへの就職・転職はよく考えてから選びましょう
[メリット > デメリット] ならば選ぶのもアリ
若いうちにいろいろな経験ができるというのが最大のポイントだと思います。
その間にスキルを身につけて、ある程度キャリアが積めたら転職・独立などするのがベターでしょう。
20代ならほぼどんなSES企業でも受け入れてくれると思います。
なので20代のうちに技術を習得するために選択するのはアリだと言えます。
[メリット < デメリット] になる前にキャリアプランを
自分のように会社にしがみついたまま40代になってしまうと、立ち行かなくなります。
そうなる前、できれば30代のうちに見切りをつけて転職するのが上策です。
IT業界では35歳がひとつの区切りとされています。ITで芽が出なかったとしても、この歳ならまだ他の業界でもチャレンジ可能ですし、スキルが身についているならそこそこの企業に入れる余地もあります。
本気で転職を考えるなら
新卒の方は
最後に
実際どうかというと、うちの会社ではデメリットを被っている人だらけです。長年経験してきた割に大したキャリアも築けず、スキルも上がらない(全くではないですが)、給料も低空飛行。
求人をかけても若い社員は入ってきませんし、明るい未来はまったく見えません。
こんなしがない人生を送る前に、慎重に就職先を選びましょう!
最後まで読んでくださりありがとうございます。少しでもお役に立ったなら幸いです。
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